- 以下は、那由多事件を受けて、今年7月、既成課題のチッピング(ホールドをわざと削る)がどんな犯罪に問われるかを備忘録的にざっくりとまとめたものです。
ゲロックのホールド剥離の刑事責任
今回の同時多発ホールド剥離を何者かが故意に起こしていた場合の刑事責任についてまとめてみました。
1.器物損壊罪 可能
刑法261 器物損壊等
他人の物を損壊し、又は傷害した者は、3年以下の懲役又は30万円以下の罰金若しくは科料に処する。
今回の岩は、河川法の一号地にある自然公物(公共用物の中の自然物)と思います(河川法2条)。そうすると、それって、みんなのものじゃないのか、だったら、261条の「他人の」とはいえないのでは? という疑問も発生します。
しかし、①自然公物は国有財産法第3条2項2号の「公共用財産」に該当すると思いますし、②大コンメンタール刑法は261条の解説で「他人は私人である必要はなく」としていますので、 261条の「他人の」という条件は満たされていると考えて良いと思います。
つまり、河川法の一号地にある岩については、使用は誰でもOKなんだけど、その所有権は国にあるという感じで良いと思います。
というわけで、何者かが、わざと壊したというところが証明できれば、器物損壊罪で処罰できそうです。
処罰には、まず検察官による起訴が不可欠です。ここで器物損壊罪は親告罪なので、検察官だけで起訴できません。被害者に告訴してもらう必要があります。
今回の場合、告訴できるのは、所有者、管理者 (所有者から管理を委託されている人)、賃借人(借りている人)などです。
追記1
管理者が採石許可などを出していたら、器物損壊罪は成立しません。念のため。
追記2
条文に「わざと」(故意に)は入ってませんが、刑法は、うっかり(過失)の場合はうっかり(過失)も罰すると書くルールです。 刑法261にはこれがありません。裏を返すと、 うっかり(過失)の場合は器物損壊罪で処罰できないということです。
2.自然公園法20条、21条 or 33条違反 可能
今回のボルダーは国定公園内にありますので、ここが特別保護区や特別地域なら土石の採取や鉱物掘採には、許可が必要です(20条、21条)。普通地域なら33条で届け出が必要です。
この法的義務を怠れば自然公園法違反となります。罰則は20条と21条違反が6月以下の懲役又は50万以下の罰金(83条)。33条違反は30万円以下の罰金です(83条)。
自然公園法は親告罪ではないので、許可や届け出がなかったことを確認した上で、クライマーが被疑者不詳で告発することも可能です。
もちろん、行政との事前に打ち合わせは必要ですし、わざと剥がしたという証拠が必要ですが…
3.軽犯罪法1条32号違反 今回は無理
32号 入ることを禁じた場所または他人の田畑に正当な理由なく入った者
罰則は拘留又は科料です。
数年前、那智の滝を登ったクライマーが現行犯逮捕されたときの根拠条文がこれです。
しかし、 ゲロックは入る事を禁じた場所ではありません。 河川法により、河川への立ち入りは原則自由ですから。なので、今回の件で軽犯罪法1条32号違反に問うのは無理と思います。
ただし、今後は、例えば「わざと岩を傷つけるため立ち入ることを固く禁じます 管理者」という立て札があれば、32号違反に問えそうです。
有罪事例としては、例えば、国立公園内の「硫黄山」の噴気口付近への立ち入りを禁じた「物品の販売その他営業行為を行なうため立ち入ることを禁止する」と記載された営林署長名の立て札を無視して、生卵を蒸して観光客に販売する事を目的として立ち入った業者が有罪となっています。
軽犯罪法 新装第2版(2013年 立花書房)の32号の解説も紹介しておきます。
l 本号の趣旨
本罪は,入ることを禁じた場所又は他人の田畑に正当な理由がなくて入った者が処罰の対象である。
本号の立法趣旨は,立入禁止の場所や耕地の管理権を保護するとともに,耕作物等に対する窃盗や損壊行為を防止しようとする・・・
1) 『入ることを禁じた場所』
「入ることを禁じた場所とは,占有者,管理者が他人の立入りを禁止する意思を表明した場所である。その場所は.公のものであると私のものであるとを問わず.管理者が公務所,公務員であると私人であるとを問わない。
立入禁止の方法は,立札.はり札等の書面によるものであっても柵,垣根,縄張りその他の明示方法によるものであっても,例えば,番人等を置き,立ち入ろうとする人がある都度呼びとめるというような口頭によるものであってもよい。
4.私人逮捕
ちなみに、「わざと岩を傷つけるため立ち入ることを固く禁じます 管理者」という立て札のある岩でチッピングするクライマーに出くわして、声をかけたら、何も言わずに逃げ出したと言う場合は、我々でも逮捕可能です。
刑訴法213①
現行犯人は、何人でも、逮捕状なくしてこれを逮捕することができる。
ただし、直ちに検察官か警察官に引き渡さないといけません(刑訴法214)。また、逮捕した後に拘束してしまうと、今度は、逮捕した人が、逮捕監禁罪に問われる可能性があります。
なお、軽犯罪法違反は、罰則が科料か拘留なので、住所氏名を名乗ったり、逃亡するおそれがない場合は、逮捕できません。ご注意下さい。 刑訴法213②です。
もちろん、逮捕時に殴ったりしたら、傷害罪や暴行罪の問題も発生します。
以上より、「逮捕も可能なんですよ」とお伝えしつつ、連絡先やお名前を聞いたり、どうしてこんなことをするのかを、任意にお聞きする、というのが無難と思います。
5.河川法25条 無理っぽい
河川法25条
河川区域内において土石(砂を含む。以下同じ)を採取しようとする者は、国土交通省令で定めるところにより、河川管理者の許可を得なければならない。
上記により、採石の許可をとっていなければ25条違反の可能性があります。
しかし、なんと25条違反の罰則規定が河川法にありません。不動産侵奪罪や窃盗罪の罰則規定で対応するようですが、河川法25条違反で告訴は、河川区域内の石の無断採取で無罪となった最高裁判決もあるので、まあ無理です。
今回の件、クライマーには大問題ですが、一般の人からすれば、トラックいっぱいの量を無断採取したのならともかくも、ほんの少しじゃないか、となりますし….
6.森林法197条違反 無理
第197条
森林においてその産物(人工を加えたものを含む。)を窃取した者は、森林窃盗とし、三年以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。
いわゆる森林窃盗罪です。これでいけるのではとのご指摘があり調べてみました。
確かに、富士山の山麓で溶岩を持ち帰って森林窃盗罪に問われた事例がありました。しかし、今回の岩は森林内ではなく河川区域にあるので、そもそも「森林において」という条件にあわないと思います。
窃盗罪の方がまだ可能性がありそうですが、ホールドを削った後に、捨ててしまっていたら、窃盗罪は無理です。
とりあえず、以上です。
ざっと調べただけなので、勘違いがあるかもしれません。その場合はご指摘ください。
民事責任についてはまたいずれ。
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民事責任は、所有者や管理者が709条に基づいて賠償金を請求することになると思います。
もし課題=作品=著作物ということが一般にも認められれば、課題の初登者は、著作権法20条違反(同一性保持権侵害)を根拠に、チッピングした人を告訴したり、賠償金を請求する道がひらけます。
しかし、現時点では課題著作物論(ロクスノ72参照)を唱えてるのは宗宮だけですので、特に著作権法違反による刑事責任追及はまだ無理です。

